ベラミ

ベラミ

著 ギ・ド・モーパッサン

女たちの助力なくして、出世はあり得たのか。 署名に貴族風の綴りを加えることは、いかにして自己欺瞞となるのか。


『ベラミ』(原題:Bel-Ami、「良き友」の意)は、フランスの作家ギ・ド・モーパッサンが1885年に発表した2番目の長編小説である。1903年に英訳版『Bel Ami, or, The History of a Scoundrel(ベラミ、あるいはある悪党の歴史)』が登場したこの作品は、単なる出世物語ではない。

物語は、フランスのアフリカ植民地に従軍していた貧しい元騎兵隊下士官のジャーナリスト、ジョルジュ・デュロワが、一連の有力で知的、かつ裕福な女性たちを操ることで、パリで最も成功した人物の一人へと腐敗に満ちた出世を遂げる姿を追う。舞台は、有力紙『ラ・ヴィ・フランセーズ』の主要なジャーナリストたちとその友人たちが集う、パリの上流中産階級の環境である。些細な事件やソフトニュースの記者から編集長へと上り詰めていく彼の道のりを支えたのは、常に女性たちの力であった。「退廃した都市、サロン、そして危険な恋」──趣味、金、名声、そして渇望が絶えず仮面を入れ替える世界の悦楽と危険を、本作は描き出している。


二人の女性が支えた、デュロワの出世

デュロワの最初の成功は、かつての戦友フォレスティエの妻マドレーヌのおかげであった。彼女は彼の最初の記事の執筆を助け、社説には鋭さと痛烈さを加え、有力政治家とのコネクションを通じて舞台裏の情報を彼にもたらした。マドレーヌのサロンを通じて、デュロワは多くの政治家にも紹介される。

同時に彼は、フォレスティエ夫妻の友人で、もう一人の影響力ある社交界の名士であるド・マレル夫人の愛人となった。デュロワがマドレーヌをも誘惑しようとした時、彼女はその誘いを拒絶し、下心のない友人であり続けることを提案している。


夫の死、そして崩れゆく結婚生活

シャルル・フォレスティエの健康が悪化し、南フランスで療養するもまもなく死去すると、デュロワはマドレーヌに結婚を申し込み、彼女は数週間の検討の末に同意する。ジョルジュは名前に威厳を持たせるため、自身の記事に「デュ・ロワ(貴族風の綴り)」と署名するようになった。

しかし新聞社では、亡きフォレスティエがそうであったように、デュロワも妻に記事を書かせていると嘲笑される。同僚たちが彼を「フォレスティエ」と呼ぶことに激怒したジョルジュは、マドレーヌに激しい嫉妬を抱き、彼女にフォレスティエへの不貞を認めるよう迫るが、彼女が認めることはなかった。


女たちの力で駆け上がった男が、その名を貴族風に飾るとき、 「出世とは何によって成し遂げられるのか」という問いが、静かに浮かび上がる。

結末

ネタバレを含みます

ギ・ド・モーパッサンの小説『ベラミ』は、19世紀末のパリを舞台に、貧しい元騎兵の下士官ジョルジュ・デュロワが、欲望と計算に満ちた社会を巧みに泳ぎ切り、メディアと政治、そして女性たちを利用して社交界の頂点へと登り詰めていく没落と栄達の物語である。 アルジェリアでの軍務を終え、パリで貧困に喘いでいたデュロワは、旧友のシャルル・フォレスティエと再会したことをきっかけに、新聞社「ラ・ヴィ・フランセーズ」で駆け出しの記者として働き始める。才能に乏しいデュロワだったが、魅力的で野心的なフォレスティエの妻マドレーヌの助力を得て署名記事を執筆し、頭角を現していく。また、上流階級の婦人であるマレル夫人をはじめとする女性たちを誘惑して愛人関係を築き、「ベラミ(男友達)」の愛称で社交界の寵児となっていった。 やがて病弱なフォレスティエが亡くなると、デュロワはすぐさま未亡人となったマドレーヌに求婚し、彼女の持っている政財界のネットワークと執筆能力を手に入れる。名前を貴族風の「デュ・ロワ」と改名した彼は、政治部長へと昇進し、妻のコネクションを活用して政界の裏情報や秘密を掴んでいった。しかし、かつての夫と同じように妻に記事を書かせていることを同僚から嘲笑されると、執着と嫉妬を募らせ、マドレーヌとの関係も冷淡なものへと変わっていく。 さらなる権力と富を求めたデュロワは、新聞社の社主でありモロッコ併合をめぐる投機で巨万の富を築いたヴァルテール社主の妻を言葉巧みに誘惑し、愛人にしてビジネスの内部情報を得ると同時に、莫大な金を手に入れる。だが、富豪となったヴァルテールの莫大な財産と地位を目の当たりにしたデュロワは、年老いた妻マドレーヌや愛人のヴァルテール夫人では満足できず、ヴァルテール家の若く美しい純真な娘スザンヌに着目する。 デュロワはマドレーヌと外務大臣ラロッシュ・マチューとの不倫現場に密告者を伴って踏み込み、不貞を理由に離婚を成立させる。これによって障害を排除した彼は、純粋なスザンヌを言葉巧みに駆け落ちへと誘導し、世間体を気にするヴァルテール夫妻を脅迫同然に納得させて結婚の承諾を取り付けた。 物語の結末、パリのマドレーヌ寺院でスザンヌとの豪華絢爛な結婚式が執り行われる。かつての愛人たちの嫉妬や絶望、社会の腐敗をあざ笑うかのように、名声と莫大な財産を手に入れたデュロワは、大寺院の階段を堂々と降りていく。大衆からの羨望の視線を全身に浴びながら、彼はかつての愛人マレル夫人の面影を思い浮かべ、さらなる政界の頂点。内閣大臣の座。への野心を胸に抱きながら、絢爛たるパリの街へと歩みを進めるのだった。

登場人物

ジョルジュ・デュロワ貧しい元騎兵の下士官で、容姿と野心を武器に社交界の女性たちを利用してメディアと政界の頂点を目指します。
マドレーヌ・フォレスティエシャルル・フォレスティエの妻で、抜群の知性と政財界のコネクションを持ち、夫やデュロワの記事を代筆して彼らを成功に導きます。
シャルル・フォレスティエデュロワの元軍隊仲間で新聞「ラ・ヴィ・フランセーズ」の政治部長であり、デュロワを新聞業界へ引き入れるきっかけを作ります。
クロチルド・ド・マレルマドレーヌの友人で社交界の婦人であり、デュロワの最初の愛人として彼に「ベラミ」の愛称を与え、深い関係を保ち続けます。
ヴァルテール夫人新聞社「ラ・ヴィ・フランセーズ」の社主の妻で、デュロワの策略にハマって愛人となり、金融取引の秘密情報を与えてしまいます。
スザンヌ・ヴァルテールヴァルテール社主の若く美しい娘で、デュロワの洗練された魅力に惹かれ、彼のさらなる野望の標的となります。

名言・名場面

今は私の言っていることが理解できないかもしれないが、後になって私が話したことを思い出すだろう。人間は息をし、眠り、飲み、食べ、働き、そして死ぬのだ! 人生の終わりは死だ。君は何を切望する? 愛か? わずかな接吻で君は無力になる。金か? 何のためだ? 欲望を満たすためか。名声か? その全ての後に何が来る? 死だ! 死だけが確実なのだ。原文: You do not understand me now, but later on you will remember what I have told you. We breathe, sleep, drink, eat, work, and then die! The end of life is death. What do you long for? Love? A few kisses and you will be powerless. Money? What for? To gratify your desires. Glory? What comes after it all? Death! Death alone is certain.ベラミ. 主人公が追い求める世俗的な成功や欲望の虚しさを鋭く突きつけており、作品全体に漂う虚無感と死のテーマを象徴する極めて強烈な思想が込められているため。
大富豪のお通りだ。原文: The millionaires are passing by.ベラミ CHAPTER XIV. THE WILL(第1. 遺産を手に入れて名実ともに上流階級の仲間入りを果たしたデュロワの達成感と露骨な野望、そして自身の成功に対する強い誇らしげな自負が短い一言に凝縮されているため。
スザンヌは叫んだ。「あら、このお方、あなたにそっくりだわ、ベラミ! 本当にあなたに似ているわ。目を見張るほどの生き写しよ。」原文: Suzanne cried: "Why, He looks like you, Bel-Ami! I am sure He looks like you. The resemblance is striking."ベラミ CHAPTER XV. SUZANNE(第15章. 聖なるキリストの像に、世俗的な欲望と権勢を体現する野心家デュロワ(ベラミ)の面影が重ね合わされるという皮肉なコントラストが、社交界における彼の圧倒的な魅力と支配力を鮮烈に印象付けるため。
私は自分の立場を築かなければならない貧しい男に過ぎないが、意志とある程度の知性があり、前進している最中だ。野心を達成した男は何に頼るべきかを知っているが、これから道を切り拓く男には何が起こるか分からない。良くも悪くもなり得るのだ。いつだったか、私の最も大切な夢はあなたのような女性を妻にすることだと話したはずだ。原文: You know that I am only a poor devil, who has his position to make, but I have the will and some intelligence, and I am advancing. A man who has attained his ambition knows what to count on; a man who has his way to make does not know what may come—it may be better or worse. I told you one day that my most cherished dream was to have a wife like you.ベラミ デュロワがその未亡人となったマドレーヌに対して自らの野心と愛を告白し. 友人の死の直後という衝撃的なタイミングでありながら、情熱と緻密な計算を交えて自らの野心とパートナーシップを提示するデュロワの貪欲で計算高い人物像が顕著に表れているため。

よくある質問

あらすじを教えてください。

貧しい元兵士のジョルジュ・デュロワが、旧友の助けで新聞記者となり、持ち前の容姿と野心で女性たちを魅了しながら上流階級へ上り詰める物語です。彼は友人の妻マドレーヌの協力を得て記事を書き、社交界の婦人たちと関係を結んで「ベラミ」と呼ばれながら権力を握っていきます。やがて政財界の裏取引や不倫、密告を駆使してさらなる富と地位を手に入れ、野望のままに突き進んでいきます。

学校の授業やテストで問われやすい重要な箇所はどこですか。

主人公デュロワが自力ではなく女性たちの能力や人脈を利用して記事を書き、出世していく過程が頻出します。また、老詩人ノルベール・ド・ヴァレンヌがデュロワに対して人生の虚無さと死の絶対性について語る場面や、新聞社「ラ・ヴィ・フランセーズ」を通じて描かれるメディアと政財界の癒着、モロッコ投機をめぐる暗闘などの社会風刺構造が重要な考察ポイントになります。

古い海外文学ですが現代語訳や原文が読めなくても理解できますか。

はい、全く問題ありません。19世紀のフランス文学ですが、描かれているテーマは現代のサスペンスや人間ドラマと非常に近く、読みやすい日本語訳が多く刊行されています。古典特有の難解な文体ではなく、ジャーナリズムの世界や人間関係の駆け引きがスピーディーに展開するため、海外の長編小説に慣れていない方でもエンターテインメントとして滑らかに楽しむことができます。

結末はどうなりますか。

欲望と権謀術数が渦巻く社交界の頂点を目指すデュロワが、自らの野望のために打つ最後の大打倒の結末は、ぜひ本文でお確かめください。すべてを手に入れようとする彼が手にするのは至高の栄誉なのか、それとも欺瞞に満ちた破滅の落とし穴なのか、大寺院の階段を下りる彼の眼前に広がる光景がその答えを物語っています。

タイトルの「ベラミ」にはどのような意味があるのですか。

フランス語で「Bel-Ami」、つまり「男友達」や「素敵な友達」を意味する言葉です。作中では愛人のマレル夫人の幼い娘がデュロワを呼び始めた愛称であり、やがて社交界の婦人たちの間で彼の通称として定着します。女性たちにとって親しみやすく魅力的な存在であると同時に、その親密さを利用して上り詰めていく主人公の二面性を象徴する巧みなタイトルとなっています。

主人公ジョルジュ・デュロワの人物像や魅力はどこにありますか。

デュロワは決して高潔な英雄ではなく、道徳観を欠いたエゴイストであり、徹底した野心家です。しかし、己の欲求に素直であり、自身の容姿と愛嬌を巧みに計算して立ち回る鋭い実行力を持っています。読者は彼の腐敗した行動に眉をひそめつつも、世渡りの巧みさと階級の階段を恐れず駆け上がっていく圧倒的なエネルギーに引き込まれていきます。

出版社
BookAI
発行日
2026-08-12

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