『大唐西域記』(だいとうさいいきき)、通称『西域記』は、唐代の高僧である玄奘が口述し、弟子の弁機が編纂した地理・歴史の巨作です。貞観20年(646年)に完成した全12巻に及ぶこの野心作は、空想上の神仏幻想ではなく、玄奘が単身で西域やインドを旅した17年間に、自らの足と命で測り取った真実の見聞録です。新疆から南インドに至る140カ国以上の国境、気候、産物、政治、宗教、風俗などを細緻な筆致で描き出し、歴史の流れの中に定着させた、史学と地理学的価値を兼ね備えた壮大な文明図巻といえます。
本作は世界の文化史上、代わりのきかない「灯台」のような地位を占めています。古代インドは完備された歴史記録を欠いていたため、この奇書は後世において古インド史を再構築するための唯一の鍵となりました。インドの歴史学者アタール・アリ教授は、「法顕、玄奘、馬歓の著作がなければ、インド史の再構築は完全に不可能だっただろう」と極めて高く評価しています。19世紀のイギリスの考古学者アレクサンダー・カニンガムは、本書の正確な記述を頼りに、砂塵の中から鹿野苑(サールナート)、ナーランダ寺院、ブッダガヤのアショーカ王大塔などの仏教聖地を再発見しました。現在のインドの国章にある獅子首柱や国旗の法輪のデザインさえも、その根源をたどれば本書が導いた考古学的発掘に行き着きます。
千年を超えるトップクラスの文化的IPとして、『大唐西域記』の影響力は現代のクリエイティブ、映画、ゲーム分野にも及んでいます。古典名著『西遊記』の核心的な現実モデルであり、西天取経をテーマにした無数の文芸作品にインスピレーションを与えてきただけでなく、そこに描かれた西域の驚異や伝説的な歴史は、近年、歴史ドキュメンタリーやドラマとして何度も映像化されています。現代のデジタルゲームにおいては、シルクロードの美学や仏教ファンタジーの世界観を構築する重要な歴史的・視覚的インスピレーションの源泉となっています。1857年にフランスの学者スタニスラス・ジュリアンが仏訳して西洋に研究熱を巻き起こしてから今日に至るまで、この真実の旅行記は時空を超えた強力な生命力を放ち続けています。