張岱の文体は、冷静かつ凝縮されていることで知られ、感情をほとんど表に出さない。しかし、その「天地無言」の筆致には、人を動かす強大な力が宿っている。亡国の悲しみや黍離の悲(故国の滅亡を嘆く悲しみ)を綴ったことが、彼の代表作である『陶庵夢憶』と『西湖夢尋』という二つの「夢」の基調となっている。
張岱の著作の中で最も広く流布しているのが、甲申の変(明の滅亡)の後に隠居生活の初期に執筆された『陶庵夢憶』である。張岱は遺民としての立場から、亡国前の経験や見聞を追憶し、飲食、観光、骨董、演劇、庭園、技芸、草花、住居、著名人など多方面から描き出し、江南の風物や人情を再現しており、その文史的・芸術的価値は極めて高い。また、整然と凝縮された詩的な言語を用いて人物の本質を捉えることに長けており、簡潔で清廉、かつ詩情豊かな雰囲気を醸し出している。
『西湖夢尋』は、張岱による山水庭園の小品集である。西湖の山水や庭園の描写に加え、特にそこに関わる歴史的エピソード(掌故)や逸話を深く考証して記しており、西湖のディープなガイドブックとも言える内容である。『西湖夢尋』は、張岱が忘れがたい過去への執着の中で、今を惜しみ昔を振り返りながら、国家滅亡の痛みを吐露したものである。